企業法務・企業再生のためのリーガルサービスを目指します 中島成総合法律事務所

コンプライアンス、リスクマネジメント、個人情報の保護

1 コンプライアンス

(1) コーポレートガバナンス
【コーポレートガバナンスとは】

コーポレートガバナンスとは、会社のあるべき統治システムのこと。
日本でこの議論を盛んにしたきっかけは、総会屋への利益供与や官僚への接待による贈賄など、大企業の不祥事が重なったため、社会の厳しい批判が起きるとともに問題意識が高まったことにある。

なぜ企業が違法行為をし続けるのか?日本の会社統治のシステム自体に根本的な原因があるのではないか?

【会社は誰のためにあるのか】

この点に関し、「会社は誰のためにあるのか?」という議論がなされる。
長い間、日本の大企業の多くは、株主のためでなく経営者のために会社支配がなされてきたといえる。株式も、銀行や保険会社、主要取引先などの安定株主が持ち合って批判が出ないようにし、株主総会はできるだけ手短に終わるのが最良とされた。また、次期社長や取締役、監査役を誰にするかの人事を実質的に握る社長に対して、その監督機関たるべき取締役会や監査役が意見をすることは実際には困難という問題もあった。
このような経営に透明さと批判がない状態の中では、社長に気に入られる結果を出すためなら、違法行為すら出世のための必要悪、会社のための美徳と化してしまう。しかし、会社の所有者は会社に出資をした株主であり、株主以外にも、取引先、従業員、債権者、顧客等様々なステークホルダー(利害関係者)が存在する。
会社は、経営者のためにあるのではなく、所有者である株主のためにあるということが基本。それと共に、様々な関係者の利害と共にあることを常に意識する必要がある。

【説明責任=アカウンタビリティ】

株主の資産を預かって事業を担当している代表取締役ら経営陣は、その資産の使い方について、株主や投資を考えている人々に対して、納得し理解してもらうために必要な説明を偽りなく行なう責任(説明責任=アカウンタビリティ)がある。これを果たすためには違法経営はできない。また、ビジネスや投資が国際化している点からも、企業は自社の情報を透明に開示しなければならず、そうしなければ投資家等の信用が得られない。

コーポレートガバナンスの議論とは、経営を透明化し適正な批判を受け入れられる会社の統治システムをどうやってつくるかという議論。そのことによって、会社を違法行為や社会的非難から守り、また、もっとも適切な経営体制を維持して経営の効率化を図ろうとする議論。

(2)コンプライアンス(法令遵守)
【コンプライアンス(compliance)とは】

コンプライアンスとは、法令遵守のこと。
企業活動にせよ個人の行為にせよ、法令を守るのは当然のことであるにもかかわらず、なぜこの言葉が強調され続けるか。

【大きく2つの理由】
  1. 大がかりで組織的な談合、上場会社の情報開示手段である有価証券報告書等への虚偽記載、インサイダー取引、個人情報の漏洩、贈収賄、簿外債務の発覚など、大企業の不祥事が後を絶たず、これらに対する社会的な非難が高まっている。

    【直近ケース】
    • 国土交通省の抜き打ち検査で、日産自動車が国による品質チエックを代行する完成車検査を、国内全6工場で無資格者(補助検査員)に日常的に行わせ、116万台のリコールを届け出た。国土交通省によれば、資格を装うため、書類上、有資格者の判子が押されていた(毎日新聞2017年10月9日朝刊)。日産は、不正が国交省から指摘された後も4工場で不正検査を継続しており、10月19日、国内に6つある全工場で国内向け車両の出荷を停止すると発表した。出荷再開まで2週間程度かかるとしている(日経2017年10月20日朝刊)。野村證券は、この出荷停止は日産の連結営業利益を100億円下げると推測する(日経2017年10月21日朝刊)。不正発覚後も無資格者による検査が続いた原因について、社長は、記者会見で、上から指示をしても部長と係長のコミュニケーションが悪く徹底されなかった旨説明している。
    • 神戸製鋼所が、アルミニウム、銅製品の強度、寸法等を偽って出荷していたと発表した。納入先はトヨタ自動車、三菱重工業、JR東海など約200社に及び、改ざんは、2017年8月末までの1年間で2万トン超にのぼる。顧客企業との契約上の仕様が満たされていないのが判明した後、検査証明書のデータを改ざんしていた。管理職を含む数十人が関与した(朝日新聞デジタル 2017年10月8日)。データ改ざんは10年以上前から行われていた可能性があり、株価は10月10日から2日間で4割下落した(日経電子版2017年10月18日)。
      神戸製鋼は2017年5月、高い倫理観とプロとしての誇りを持つなど、社員が守るべき規範を定めたばかりだった(毎日新聞電子版2017年10月11日)
      銅製品の一部はJIS規格を満たしていないとの指摘がある。データ改ざんは、2017年8月19日に社内の情報窓口に情報が寄せられて問題が発覚した(日経2017年10月21朝刊)。検査担当者が異動して、後任の担当者が検査機械が壊れていたことからデータ捏造に気づいたという報道もある(日経デジタル2017年10月17日)。

    ※ 違法行為が繰り返され、違法行為をしない経営姿勢を維持しなければ会社の存続そのものが危うくなること、取引先のみならず社会的に多大な被害を生じさせることが、コンプライアンスが強調され続ける第一の理由。
  2. 経済の国際化、自由化(規制緩和)の進展
    国際化のなかで、投資の対象としても、企業提携の対象としても、対外的な説明責任(アカウンタビリティ=accountability)を果たすことが厳しく求められている。違法行為をしていたのでは本当のことを説明できず、経営に透明性(トランスペアランシー=transparency)を確保できない。そのような企業は国際的な信用を得ることができない。
    また自由化、(=規制緩和)は、最低限のルールの存在を必要とする。それがなければ公正な競争が成り立たない。
【コンプライアンスの2つの意義】

リーガルリスク(法的リスク)の回避と社会信用リスクの回避
法的リスクの回避とは、たとえば贈収賄事件や粉飾決算などにおける刑事責任や、損害賠償などの民事責任、許可・認可の取消しや課徴金などの行政処分等の法律上の処罰を受けないようにすること。
社会信用リスクの回避とは、法的リスクの回避を含め、そこに至らないまでも、企業の活動や従業員の行為について、社会倫理的な非難を受けることのないようにすること。

どのような法令を守らなければならないか。
守るべき法令は非常に多く、そのなかには誰でも感覚的に理解できるもの(例えば、恐喝や贈賄など)から、知識がないと判断が困難なもの(例えば、インサイダー取引、独禁法の優越的地位の濫用)まで、いろいろなレベルのものがある。また、例えば、金融機関が投資信託を販売するにあたってどの程度まで、あるいはどのような方法で顧客にリスクを説明すれば十分かなどということは、顧客の投資経験を前提に、金融商品取引法、銀行法、金融商品販売法、消費者契約法、さらに判例に照らし初めて判断できる、あるいは違法か適法か裁判にならなければわからないようなケースもあり得る。

【言うは易く行なうは難し】

最も重要なことは、経営のトップが、重要性と困難性を認識すること。
そのうえで、マニュアルを作成し、コンプライアンス・オフィサーたる弁護士等のアドバイスをトップから従業員まで気楽に受けられるようにし、法令の知識を配布し、コンプライアンス委員会等を組織し、研修を積み重ねて知識と意識を高め、内部通報制度を実効的なものにし、発生した問題に対しては、その原因の特定と除去、再発防止策を講じることを継続していくことが必要。

(3)内部統制システム 〜会社法・会社法施行規則、金融商品取引法(日本版SOX法)〜
【会社法・会社法施行規則】

会社法は、取締役会設置会社において内部統制システムの構築は取締役会の決定事項とし、資本金が5億円以上等の大会社ではこの構築を義務としている。

【内部統制システム】

内部統制システムとは、取締役等の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制、その他株式会社の業務、並びに当該株式会社及び子会社で構成される企業集団の業務の適正を確保するために必要な体制のこと(会社法362条4項6号)。

内部統制システムが目指すものは、あるべきコーポレートガバナンス、 コンプライアンス体制の確立と、それを含んだうえでの会社業務の適正確保体制。

内部統制システムが意識的に求められるようになった背景には、大阪地裁平成12年9月20日判決(大和銀行株主代表訴訟)が、リスク管理体制の構築・その監視が取締役の義務と認めたこと、大企業の不祥事が社会に大きな影響を与えてコンプライアンス体制の確立が主張され続けていること、そのなかで企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)が強調されていることが挙げられる。

内部統制システムの具体的な内容(会社法施行規則100条、112条)

  1. 取締役や執行役の業務執行情報の保存管理体制
  2. 損失の危険管理に関する規定や体制
  3. 取締役や執行役の職務執行の効率を確保する体制
  4. 従業員の職務執行の法令、定款への適合性確保体制
  5. 子会社の取締役らの職務執行情報の管理、保存体制
  6. 子会社の損失危険管理体制、F子会社の取締役等職務の効率性確保体制
  7. 子会社の取締役等の職務執行の法令、定款への適合性確保体制
  8. その他企業集団における業務適正確保体制
  9. 監査役等による監査が独立して実効的になされる体制構築等
【金融商品取引法(日本版SOX法)】

上場会社の財務情報の適正確保に関する内部統制システムの構築については、日本版SOX法(米国のサーベンス・オクスリー法〈SOX法〉にちなんだ通称)と称される、金融商品取引法の条項の一部(24条の4の4、193条の2第2項)によっても義務化されている。
上場会社は財務計算その他の情報の適正を確保するために必要な体制について評価した報告書(内部統制報告書)を有価証券報告書と併せて内閣総理大臣に提出しなければならず、同報告書には、公認会計士または監査法人の監査証明を受けなければならない(同法24条の4の4、193条の2第2項)。

財務を含む全体的な内部統制システムの構築義務については会社法や会社法施行規則で規定し、特に専門的な上場会社の財務情報の適正については、金融商品取引法でさらに具体的に規定する構造になっている。

※ 内部統制に関わるルールとして、法律ではないものの、証券取引所の策定する有価証券上場規定の中の企業行動規範、コーポレート・ガバナンスコード、スチュワードシップコード等がある。 

【コーポレート・ガバナンスコード】(平成27年6月1日に施行)
  • 金融商品取引所の上場規定による。
  • 5つの基本原則、30の原則、38の補充原則(原則 計73)。
  • 基本原則5つは、株主の権利・平等性の確保、株主以外のステークホルダーとの適切な協働、適切な情報開示と透明性の確保、取締役会等の責務、株主との対話。
【スチュワードシップ・コード】(平成26年2月策定)

会社との間の建設的な対話により、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指す機関投資家の行動原則。

(4)コンプライアンスの具体的な場面 〜インサイダー取引(金融商品取引法)、不公正取引(独占禁止法)〜

ア、インサイダー取引(内部者取引)

【処罰の理由】

会社に関係していることで会社の未公開情報を知った者が、これを利用して有利な株式取引を行なうことが許されれば証券市場の公正が損なわれるため、証券取引に対する投資家の信頼を維持できず、証券取引制度が成り立たない。

【インサイダー取引規制】

金融商品取引法は、インサイダー取引(内部者取引)を禁止し(同法166条、167条)、違反した者には5年以下の懲役、500万円以下の罰金。法人の代表者又は法人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人の計算でインサイダー取引規制に違反した場合には、その法人に対して5億円以下の罰金。インサイダー取引規制違反によって得た財産は原則として没収又は追徴。これら刑罰ではないものの、行政罰として金融庁による課徴金納付命令がある。

【規制の内容】

インサイダー取引規制とは、上場会社等の会社関係者等であって、職務に関して会社の重要事実を知った者は、その重要事実が公表された後でなければ、当該会社の株券等の有価証券の売買等をしてはならない、とする規制。「上場会社等」にはその親会社、子会社の双方を含む。

<会社関係者等>

  • 会社関係者
    上場会社等の役員、従業員、代理人、帳簿閲覧請求権を有する株主(3%以上の議決権を有する株主)、契約締結者
  • 情報受領者
    第一次情報受領者=会社関係者から直接情報の伝達を受けた者のみが規制の対象。
  • もと会社関係者
    会社関係者でなくなった後1年以内の者

<重要事実>
(軽微基準によって軽微とされるものについてはインサイダー取引の対象とならない。()内はその例)

  1. 決定事実
    株式・新株予約権の発行(払い込み金額総額が1億円未満は軽微)、資本減少、自社株取得、剰余金の配当、業務提携、株式分割、株式交換・移転、会社分割、新製品の企業化(売上等に与える影響見込みが10%未満は軽微)など
  2. 発生事実
    災害に起因する損害(純資産の3%未満は軽微)主要株主の移動、訴えの提起(訴訟の目的額が純資産の15%未満は軽微)、主要取引先との取引の停止など
  3. 決算情報
    一定規模の業績の変動情報→例えば、売上が前期実績から10%以上増減する。
  4. バスケット条項
    (その他、投資判断に著しい影響をあたえる事実)
  5. 子会社にこれらが発生した場合

<公表>
※ 重要事実の公表後の株式売買等は処罰されない。

公表方法

ア、当該会社により2以上の報道機関に公表され、12時間が経過した
イ、インターネットを通じた公表

  • 証券取引所の適時開示規則によりTDネット(Timely Disclosure Network・適時開示情報伝達システム)を通じて適時開示情報閲覧サービスで開示された
  • 有価証券報告書、半期報告書、四半期報告書などが財務局のEDINET(Electronic Disclosure for Investors’Network・エディネット)を通じて開示された。

【決定機関、実現可能性】
  1. 日本織物加工事件(最高裁平成11年6月10日判決)
    M&Aの一環としての新株発行決定の公表前に、監査役たる弁護士が株式を買い付けたケース
    (決定機関について)
    業務執行に関する意思決定を行なう機関は、商法(現在の会社法)に定められた決定権限のある機関に限らず、実質的に会社の意思決定を行なえるものであれば足りる。
    ※ 社長が親会社の役員に「今回は是非実現したいのでよろしくお願いします」などと言った時点で、取締役会決議がされていなくても、決定があったとされた。
    (実現可能性について)
    株式の発行の決定は、決定の時点で当該発行が確実になされる予測が成り立つ必要がない。
  2. 村上ファンド事件(最高裁平成23年6月6日判決)
    ニッポン放送の株式の公開買付(期間、株数、価格を公表して株式市場外で株式を買い集めること)をするライブドアの決定を知った者が、公表前にニッポン放送の株式を買い付けたケース
    (実現可能性について)
    実現可能性が全くあるいは殆どなく「公開買い付けを行う決定」というべき実質を有しない場合があり得るのは別として、決定をしたというためには、実現可能性があることが具体的に認められることは要しない。
【平成25年金融商品取引法改正】

証券会社や会社関係者から情報伝達を受けた者によるインサイダー取引が多数発生したため、次の改正が行われた(金融商品取引法167条の2)。

会社関係者で重要事実を知ったものは、公表前に、株式の売買等をさせることで利益を得させる目的をもつて、重要事実を伝達したり、又は当該売買等をすることを勧めてはならない。

※ 情報受領者等が公表前に取引をした場合は、違反者に対して5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、課徴金の罰則が科される。

※ 「株式の売買等をさせることで利益を得させる目的」が要件とされた理由は、業務提携の交渉やIR活動などの業務に影響を与えないようにするため。

金融庁平成25年9月12日「情報伝達・取引推奨規制に関するQ&A」では、IR活動の一環として行う自社への投資を促すような「一般的」推奨については該当しない旨回答されている。
 逆に言えば個別に伝達したり推奨したりする積極的な行為は該当する。注意を要する。

【自社株取引とインサイダー取引】

自社株取得の株主総会決議の公表後、同決議に基づいて会社自身が自社株購入する場合は、インサイダー取引の規制対処から外されている(金融商品取引法166条6項4号の2)。

本来、この株主総会決議公表後であっても、これに基づいて取締役会が自社株購入の具体的な時期、株式数などを決定したことは重要事実(以下「本件重要事実」)にあたる。しかし、この具体的な決定を公表すると株価に影響を与え自社株購入がしにくくなることを考慮した除外規定。

他方、本件重要事実公表前に、会社関係者等が個人としてその会社の株式売買を行った場合はインサイダー取引に該当する。十分な注意が必要。

【社内での重要事実の伝達】

(東京高等裁判所平成29年6月29日判決)
証券会社(A社)の営業担当のBが、上場会社C社との公募増資引受契約の締結の交渉に関しA社の引受部門の従業員Dらが知ったC社の公募増資決定(重要事実)の伝達をA社内で受けた。コンサルティング会社役員Eは、Bから当該重要事実を伝えられ、公表前にC社の株式を売り付けたとして、証券取引等監視委員会が、Eにつき6万円の課徴金納付命令勧告を行い、金融庁が同納付命令の決定を出したところ、Eが取消訴訟を提起した。

Bが、その職務に関して重要事実を知ったか否かが争われた。
本判決は、職務に関して知ったといえるためには、その者(B)が重要事実を単に認識しただけでは足りず、その者(B)を会社関係者と位置づけることを正当化する状況、すなわち、当該契約の締結若しくはその交渉をする従業員(D)が知った重要事実が、A社内部においてその者(B)に伝播したもの(流れて、伝わったもの)と評価できる状況が必要、と判断して課徴金納付命令を取り消した(確定)。

上場会社C社−(D(交渉)→B : A社内部)→E(会社外部)

※ 社内のある部門が得た情報が、他の部門に流れて、公表前の外部者による株式売買につながったときのインサイダー取引の成否についての判決。

本判決は、A社内部で社員2名からBに伝播したと評価できるか検討し、その事実がないとしてA社内部においてBに伝播したものとは認められないとした。なお、Bが質問に答えた調書の記述は、自己の経験則により公募増資を推察したことを述べているにすぎないと判断している。

例えば、重要事実を社内のある担当者が知った場合、社内の他の従業員等にそれを伝えると、伝えられた当該従業員又は当該従業員から情報を受領した外部の者が、インサイダー取引の責任に問われる可能性があることを認識する必要がある。
本判決は、社内での伝播をある程度厳格に解するものではあるけれども、疑われたり訴訟の渦中に巻き込まれた場合に嫌疑を晴らすことは容易ではないし、時間、労力名誉等の損失につながるので、常に自己が知った重要事実は厳格に管理していく必要がある。

イ、不公正取引の規制(独禁法、下請法)

【独占禁止法】

独占禁止法は不公正な取引方法を定義し(2条9項)、不公正な取引方法を行うことを禁止している(19条)。

独占禁止法2条9項5号は、優越的地位の濫用行為を定め、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること」と定める。
その該当行為の一つに、「ハ ……その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること」と定める一般的な条項がある。

※ 不公正な取引方法を行った場合、排除措置、課徴金などの対象となる。

【下請法】

下請法は、取引業者の資本金の区別と取引内容から、一定の取引の発注者を「優越的地位にある」ものと扱い、例えば、下請業者に責任がないのに、発注時に決定した下請代金を発注後に減額すること(以下「上記減額」)(下請法4条1項3号)などを禁止している。
下請法は、機械的に優越的地位や優越的地位の濫用に該当する取引を判断できるようにすることで、独占禁止法より迅速に優越的地位の濫用に対する規制を可能とする法律である。
例えば、資本金3億円超の製造業者が資本金3億円以下の事業者に、規格、品質、デザインなどを指定して製造委託した場合で、発注後、上記減額をすることは下請法に違反することになる。
下請法違反の行為をした場合、勧告、勧告の公表、排除措置、課徴金などの対象となる。

※ 大阪地裁平成22年5月25日判決
飲食店のフランチャイズチェーンを営むA社が、B社に店舗の施工工事を請け負わせており、平成18年ころにはB社の売上の9割程度がA社の関連工事となっていた。A社とB社の間では、店舗施工工事が発注される時点では代金額や支払い方法の合意はなされず、工事完成後、B社が原価計算を行い見積書をA社に提出し、殆どの工事でこれに対するA社の減額査定が行われ、減額査定の結果の代金額が請負代金として支払われていた。
B社は、資金繰りに窮して破産し、その破産管財人がA社に対し、減額査定による請負代金支払いは独占禁止法2条9項5号に該当し公序良俗に違反すると主張し、減額査定された額と適正な請負代金額の差額の返還を求めた。

裁判所は、B社のA社に対する取引依存度が極めて大きく、A社との取引が困難になれば事業継続が困難になる状態で、そのため、B社は、A社の提示した条件を受け入れざるを得ない状態であったことから、A社はB社に対して優越的な地位にあったと認定したうえ、B社が提出した見積書額の8割を下回る減額査定は、B社の原価にも満たない金額に減額する不合理な査定であり、独占禁止法2条9項5号に違反するかどうかはさておき、公序良俗に反し、当該減額査定は無効、と判断し、B社(の破産管財人)の請求を認めた。

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