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賃貸借及び保証契約に関する民法改正の内容、及び改正が不動産賃貸に与える影響
〜平成27年通常国会に民法改正(債権法改正)案が提出予定〜

2、改正内容のポイントと不動産賃貸に与える影響

(1)賃貸借
ア、賃貸人の地位の移転
(部会資料 第33、4、(2)〜(5))
【改正のポイント】
(1)不動産の賃借人が目的物件の引き渡しを受けたり賃借権登記をした後に、不動産が譲渡された場合、原則として賃貸人の地位は不動産譲渡人から譲受人に移転する。
(2)この場合、敷金返還債務、必要費及び有益費償還債務も譲受人に移転する。
(3)譲受人は、不動産所有権移転登記をすることによって、賃借人に対して自己の賃貸人たる地位を主張できる。
【不動産賃貸への影響】
(1)目的物件が賃借人に引き渡しされたりした後、物件が譲渡されれば、物件を購入した譲受人が賃貸人となる。これはこれまでの判例のとおり。
(2)(3)しかしその場合、敷金返還債務、必要費及び有益費償還債務も新賃貸人に移転するかは明文規定がなかった。
判例(最高裁昭和44年7月17日判決)は、旧所有者の下で生じた延滞賃料等の弁済に敷金が充当された後の残額についてのみ、敷金返還債務が新所有者に移転するとしていた。
今回の改正でも、敷金返還債務のうちどれだけが新所有者に移転するのかは明定されなかった。



敷金全額が代金額から控除されて賃貸物件の売買代金額が決まる場合が多いことから、特に敷金返還義務の一部だけを新所有者に移転しようとする場合は、物件売買当事者間でその旨の特約がされるべきであり、さらにこのような特約をしても、物件購入者がその特約内容を賃借人に主張できるかが争われると考えられる。



新所有者としては、賃借人のあずかり知らぬ内容を賃借人に主張することは容易ではないと考えられるので、あらかじめ賃借人の同意を得るか、又は全額敷金返還債務を負うことを前提に物件売買契約を締結すべき。

必要費及び有益費償還債務が新所有者に当然に移転すること、新所有者が賃料等を賃貸人に請求できるようになるには、賃借人の同意があるときを除いて所有権移転登記が必要なことは、これまでの判例どおり。今回それが明定された。
必要費とは、物件の維持のために必要な修繕費(例えば、トイレや雨漏りの修理)。
有益費とは、物件の価値を増加させるための費用(例えば、増改築)。
※物件の譲渡がある場合を除いて、賃借人の同意がなければ賃貸人の地位は移転しない。



サブリースによる管理物件において、当初は物件所有者Aが賃貸人としてCに賃貸していたところ、その後AとBで賃貸借契約が結ばれてBがAとCの間に入り、Bが、物件を管理してCから賃料を受領しそこから手数料を控除するなどしてAに残額を払っている状態になったとしても、それだけではBがCに対する賃貸人となったとはいえない。
Cに対する明渡し訴訟で原告をAとBのどちらにするか、解除の前提としての賃料催告の有効性などの点で問題となる。
イ、転貸の効果
(部会資料 第33、11、(1)(4))
【改正のポイント】
(1)適法な転貸借がなされた場合、転借人は、転貸人に対してのみならず、賃貸人(転貸人に対する賃貸人)に対しても直接義務を負う。その義務の範囲は、賃貸人と転貸人間の賃貸借契約の義務の範囲に限られる。
(2)適法な転貸借がなされた後、賃貸人と転貸人間の賃貸借(以下「賃貸借A」)が合意解除されても、賃貸人は、転借人に対して明渡し等を請求できない=賃貸人は、転借人に対し、賃貸借Aが解除によってなくなったことを主張できない。
(3)他方、賃貸借Aが賃料不払等の債務不履行によって解除された場合や、合意解除がなされたものの債務不履行解除も可能だった場合は、賃貸人は、転借人に明渡し等を請求できる=賃貸人は、転借人に賃貸借Aが解除されてなくなったことを主張できる。
【不動産賃貸への影響】
A(賃貸人)、B(賃借人=転貸人)、C(転借人)とすると、
(1)CはAに対しても直接義務を負うものの、AのCに対する直接の請求権では、AB間の賃料がBC間の転貸借の賃料より高くても、BC間の賃料額を超えて請求できない。逆に、BC間の賃料がAB間の賃料より高い場合であっても、原賃貸借の賃料の額を超えて請求できない。
(2)(3)サブリース等適法な転貸借がされた後に、AとBがその賃貸借契約を合意で解除しても、AはCに明け渡し請求等ができない。Cの地位を恣意的に脅かすことは妥当でないから。
しかし、賃料不払いなどの債務不履行による解除や、合意解除でも実際には債務不履行解除の要件を満たしていたときは、AはCに明け渡し請求等ができる。
ウ、敷金
(部会資料 第33、7、(1)(2))
【改正のポイント】
(1)敷金は、賃借人の債務を担保するために賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。
(2)賃貸人が、敷金から賃借人の債務を控除した残額を賃借人に返還しなければならない時期は、賃貸借契約が終了しかつ物件の返還を受けたとき、又は、賃借人が適法に賃借権を譲渡したとき。
(3)賃貸人は、賃貸借期間の途中でも、賃借人の債務弁済に敷金を充当でき、他方賃借人は、そのような充当することを賃貸人に請求できない。
【不動産賃貸への影響】
これまでは敷金の定義、敷金返還債務の発生要件、充当関係などの規定はなかった。
(1)今回の定義は、これまでの判例や一般の理解どおりのもの。
(2)賃貸人が、賃借人の債務へ充当した残額を賃借人に返還しなければならない時期は、単に賃貸借が終了したときではなく、それに加えて目的物が返還された時と明定された。なお、賃借権が譲渡されたときも敷金返還債務が生ずる。
この改正は、賃貸借契約が終了してもそれだけでは敷金返還義務はないとするところに意義がある。ただし返還時期について、賃貸人、賃借人の間で別の時期、例えば退去後一ヶ月以内等と契約することは可能。
(3)これまで賃貸借契約で多く取り入れられていた条項が明定された。
エ、賃貸人の修繕義務の範囲、賃借人の修繕権
(部会資料 第33、8、(1)(2))
【改正のポイント】
(1)賃貸人は修繕の義務を負うけれども、賃借人の責任で修繕が必要となった場合はその義務を負わない。
(2)賃借人は、次の場合は自ら修繕できる。
・修繕が必要なことを賃貸人に通知してから、又は賃貸人が修繕が必要なことを知ってから、相当期間が経過しても賃貸人が修繕しないとき。
・急迫の事情があるとき。
【不動産賃貸への影響】
(1)これまでは、賃借人の責任で修繕が必要となったときは賃貸人は修繕義務を負わないという明文規定はなく、この点は必ずしも明らかではなかった。
このことが今回明定されたものの、修繕が必要となった原因が賃貸人、賃借人のどちらにあるかは争われ得る。 (2)賃貸人が所有者であるにも拘わらず、物理的変更を伴うことが多い修繕を賃借人が権利としてできる場合が明定された。
賃貸借契約でこれと異なる定めをすることはできる。相当期間がどれくらいかは、修繕の具体的内容や修繕の緊急性によって定まると考えられる。
直ちに賃借人が修繕して構わない急迫性は、賃貸目的物が賃貸人の所有であることが多いにも拘わらず、賃借人がすぐに修繕できる場合とはどのような場合か、という観点で判断されると思われる。
オ、賃借物の一部滅失等による賃料の当然減額
(部会資料 第33、10、(1)(2))
【改正のポイント】
(1)賃借人の責任によらずに賃借物の一部が使用できなくなった場合、賃料は使用できなくなった割合で当然に減額される。賃借人からの請求は減額される要件ではない。
(2)賃借物の一部が使用できなくなって残存部分では賃借した目的が達成できない場合は、それが賃借人の責任による場合であっても、賃借人は、賃貸借契約を解除できる。
【不動産賃貸への影響】
(1)これまでは賃借人が減額請求できる、とされていたのが、当然に減額されることになった。
賃借人の責任によらないことは賃借人が立証しなければならない。
賃料減額請求の正当化理由として、賃借人の責任によらずに一部使用ができなくなったと賃借人が主張することが考えられる。
(2)これまで一部使用できなくなったのが賃借人の責任ではない場合にのみ賃借人は賃貸借契約の解除ができるとされていた(民法611条)。
これが賃借人の責任によるときも賃借人に解除権が認められることになった。賃借の目的を達することができない以上やむを得ないから。他方、賃貸人は損害賠償請求を検討することになる。
カ、原状回復義務
(部会資料 第33、13、(3))
【改正のポイント】
賃借人は、通常損耗(経年劣化を含む)について原状回復する義務はなく、それ以外の損耗についても賃借人の責任ではないものについて原状回復する義務はない。
【不動産賃貸への影響】
これは任意規定であり、契約によって賃借人の原状回復義務を広げることが可能である。
最高裁平成17年12月16日判決は、通常損耗を折り込んで賃料が定められるから、特約がある場合を除いて、賃借人は通常損耗回復義務を負わない、とした。
今回の改正もこれを踏襲しようとするものにすぎない。改正によっても、特約で通常損耗等を賃借人に負担させることはできる。
ただしその特約は、賃借人が原状回復義務を負う範囲、内容が具体的に明らかにされていることを要する。
キ、賃借人の妨害排除請求権
(部会資料 第33、6、(1)(2))
【改正のポイント】
不動産賃借物の引き渡しを受けた賃借人や、不動産賃借権の登記をした賃借人は、第三者が当該不動産の使用を妨害しているときは、賃借人自らが妨害排除請求をしたり、自らへの不動産返還を請求できる。
【不動産賃貸への影響】
これまでは、賃借権に基づいて第三者に妨害排除を請求できるかどうか、できるとしてその法律構成が必ずしも明らかではなかった。賃借権は、賃借人が賃貸人に対して目的物を使用させることを請求する権利にすぎないものだから。今回の改正では賃借権そのものに基づく妨害排除請求等が認められた。
なお、実際に妨害されていないのに、その危険が迫っていることを理由とする妨害予防請求権までは、賃借権には認められなかった。
ク、賃貸人の賃借人に対する損害賠償請求権の消滅時効
(部会資料 第33、14、)
【改正のポイント】
賃借人の用法違反で生じた賃貸人の賃借人に対する損害賠償請求権は、賃貸人が物件の返還を受けてから1年間は消滅時効が完成しない。
【不動産賃貸への影響】
これまで賃借人の目的物用法違反による損害賠償請求は、賃借人が用法違反をした時から10年(民法167条)、又は賃貸人が目的物の返還を受けてから1年(民法621条、600条)のいずれか早い方で時効消滅した。
しかし、用法違反行為から10年経過しても賃貸借契約が存続しているときは、賃貸人が返還を受けた時は既に消滅時効が完成している事態が生じ得る。これを防ぐため、賃貸人が返還を受けてから1年間は消滅時効が完成しないとされた。
ケ、賃貸借の存続期間
(部会資料 第33、3、(1)(2))
【改正のポイント】
賃貸借契約の最長期間が、これまでの20年から50年に伸ばされた。更新期間も50年を超えることができない。
【不動産賃貸への影響】
建物所有目的以外の土地賃貸借でもゴルフ場敷地や太陽光発電パネル設置敷地等、20年を超える賃貸借契約が求められる場合があるので期間が伸ばされた。
なお、建物賃貸借では、既に借地借家法で賃貸借期間の上限は撤廃されている。建物所有目的の土地賃貸借も、借地借家法で原則として賃貸借期間の上限はない。

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